●おわら用語集

基本的な「おわらの用語」です。他にも用語はたくさんあります。
入会されて、その都度、講師や先輩達に教わって技量とともに知識も磨いてください。



地方 踊り手以外の総称で、唄い方、囃し方、三味線、胡弓、太鼓の人達のことを言います。
唄の種類 唄には大きく分けて、素唄、五文字冠り、字余りの3つあります。
素唄 平唄とも言い、踊りには素唄でないと合わないので、踊りがつくときは唄い手はほとんどこの素唄を唄います。この素唄は、上句(かみく)と下句( しもく)からなり、その文句の字数は26文字です。
例 上句=うたのまちだよ(7) やつおのまちは(7) 下句=うたでいととる(7) オワラ くわもつむ(5)
五文字冠り 素唄の上句の頭(前に)5字の文句がつく、5・7・7・7・5の31文字の歌詞です。下句は素唄と同じ7・5です。
例 上句=いろにさく(5) あやめきろとて(7) たもとをくわえ(7) 下句=ふみをおとすな(7) オワラ みずのうえ(5)
字余り 上句下句を問わず、素唄よりも字句が多い歌詞で、とくに字数の制限はありません。
例 上句=三越路の 中の越路で 見せたいものは 黒部、立山、蜃気楼、ほたるいか
   下句=よそで聞けないものは 本場八尾の おわらの オワラ 節のあや
唄い方 唄い方は、唄の種類にもよって各人それぞれですが、上句も一息、下句も一息で唄わなければならないということは決まっていません。唄い手で何よりも重要なのは、楽器や踊りの人達が演じ易く、かつ聴いている人達にきちんと歌詞が伝わることです。ですから踊りが付いていても、いなくても人の前で唄うにはかなりの熟練が求められます。
上句の頭の字句が2文字(やま、はな、かぜ)、または3文字(八尾、とやま、あなた)の単語をどう唄うか(のばす)かで3拍子、5拍子、7拍子の唄い方と言っています。この区分けや節については文章で表しがたいので、実際に聞いて会得してください。

素唄、5文字冠り、字余りのそれぞれの歌詞を表現するために、唄い手が3拍子、5拍子、7拍子の唄い方を使い分けながら唄っています。楽器や踊りの人達も、気持ちの中では唄い手と一緒に唄いながら演じられるようになってください。
3拍子 上句の字句(3文字)を唄い始めから拍子を数えて、4文字目が3つ目の拍子になる唄い方です。が、現在ではほとんど使われていない唄い方です。
5拍子 上句の字句(3文字)を唄い始めから拍子を数えて、4文字目が5つ目の拍子になる唄い方です。頭の字句が「八尾、富山、目出度」などで始まる歌詞でよく使われる唄い方です。
7拍子 上句の字句(3文字)の唄い始めから拍子を数えて、4文字目が7つめの拍子になる唄い方です。頭の字句が「唄、山、風」などで始まる歌詞でよく使われる唄い方です。
捨て唄 舞台などでおわらを演ずる時、踊りが出る前に唄って聴いてもらう唄のことで、捨て唄1本は唄を1つ唄ってから、捨て唄2本は唄を2つ唄って聴いてもらってから踊りを出します。捨て唄には踊りがつかないので5文字冠りでも字余りでも、また唄い方も自由です。
囃し方 囃す時は、唄い手だけのときに囃す場合でも、音感、リズム感、そして唄わせよういう勢いなどが必須の条件となります。そして、踊りが入る舞台での囃子となると、各踊りとその唄、三味線の間合いと適宜に長囃子を入れるなどと、その一連の流れの全部を解っていないと囃し方は務まりません。ですから囃し方はそのチーム全体のキーマンであり、ある意味ではおわらの中で一番難しいのはこの囃し方かも知れません。
囃子 ウタワレヨー ワシャハヤスーと囃して唄を引き出す。そして上句が唄い終わると、キタサノサー ドッコイサーノサー(サッサー)と囃す。これが囃子の基本です。
長囃子 100メートル競争に喩えれば位置についてが長囃子です。ヨーイがウタワレヨーワシャハヤスー、そしてドンで唄が出ます。
例 越中で立山 加賀では白山 駿河の富士山 三国一だよ
     見送りましょかよ 峠の茶屋まで 人目がなければ 貴女の部屋まで
踊り 大別すると旧踊りと新踊りの2つからなっています。
旧踊り 大正3年に振付けられたと言われていて、豊年踊り(素踊り)のことです。
素踊り 初歩であり基本となる踊りで、唄の上句下句などに特別な所作はなく、素唄や5文字冠り、字余りの唄でも関係なく繰り返し踊ります。舞台での出入りの時は大勢での行進用の踊りと思ってください。慣れると単調に感じます。
豊年踊り
(旧踊り)
素踊りに唄の上句で宙返り、下句で稲刈の所作が入ります。ですから踊り手は唄の上句、下句の聞き分けが出来なければ踊れません。囃し方は踊りの笠脱ぎのところで、ウタワレヨーと囃し、上句を唄い終わった唄い手はキタサーが終り、踊りを見ていて、左手の種蒔きで下句を唄い出す。そうすれば踊りが鎌をかざして稲を刈るところで「オワラ」の唄と合います。
豊年踊りは、輪踊りや街流しで一度に沢山の人達が踊れます。また、舞台踊りにも欠かせない踊りです。上句、下句を聞きながら宙返り、稲刈りの所作を入れて踊るので、踊り方も地方も飽きずに長時間楽しめます。
宙返り 豊年踊りで、唄の上句を聞いて入れる所作。燕の宙返りの様をとったと言われています。
稲刈 豊年踊りで、唄の下句を聞いて入れる所作。鎌をかざしてから稲を刈り、縛って稲架へ投げる迄の所作を言います。
新踊り 昭和4年に日本舞踏の若柳流初代家元・若柳吉三郎師が振付けたほど利です。ただ、旧踊りが出来たのと、新踊りが出来た間がわずか15年しかないのと、この新踊りが出来てすでに70数年も経ったことなどから、新踊りと言わずに「案山子踊り(男性)」、「蛍狩り(女性」、「四季踊り(女性)」と言うようにしてください。同様に旧踊りも「素踊り」、「豊年踊り」と言ってください。
蛍狩り
(女性の新踊り)
蛍の舞うしぐさや、蛍を追い捕まえる様が取り入れられていると言われています。素踊りと同じように、唄の中身とは関係なく繰り返し踊ってください。ただ、四季踊りの基本となりますので、きちんと習得してください。舞台への出入り時にも踊ります。単調な踊りなので、これだけを長時間踊ることはありません。
四季踊り
(女性の新踊り)
四季踊りは、日本画の大家、小杉放庵翁が八尾の四季をおわらの歌詞に詠んで、それに若柳吉三郎師が振付けたもので、全くの舞台踊りですから一度に大勢では踊れません。この踊りは蛍狩りの踊りに春、夏、秋、冬の唄がついて、それぞれの所作が入ります。ですから踊り手は必ず春、夏、秋、冬の各唄を覚えてください。同様に囃し方も、唄い手も踊りを覚えてください。この四季踊りの唄は7・7・7・5の平唄です。男性の案山子踊りと並んで、おわら踊りを代表する踊りとされています。
二季踊り 四季踊りの中から春と夏や秋と冬の二季だけを踊ることを言います。
案山子踊り
(男性の新踊り)
四季踊りと同じ昭和4年に若柳吉三郎師の振り付けです。現在では素踊り、蛍狩りなどと同じように特定の歌やその為の所作はありませんが、黒の法被に黒の腹掛け、股引を着用して踊りますので目立ちます。この踊りは、随所にカカシの姿をとどめながら、緩急と切れ、手足の決めを見せ場としますので、踊り手はかなりの運動量と体力を必要とします。四季踊りと並んで人気のある踊りです。
夫婦踊り 昭和の終り頃に創作された踊りで、男女一名ずつで踊ります。素踊り、蛍狩り、案山子踊りを組み合わせてあり、唄との絡みは四季踊りと同じで、各唄の最後には独特の所作を入れます。唄は艶っぽい歌詞や掛け合いの唄などを選んで唄い、それに合わせて踊りはそれなりの所作を考えて入れます。時には四季踊りや案山子踊り以上に持てはやされる踊りです。
街流し 以前は気の合った唄い手数人、三味線2〜3丁、胡弓1丁の地方だけで、人影がなくなった深夜から明け方にかけ、自分たちだけで真剣に演じて研鑚、楽しんでいたものです。が、観光客の増加やマスコミの介在で本来の街流しは出来なくなりました。
現在では夜更けから明け方にチームを組んで流していますが、観光客がいて以前のような雰囲気はなくなりました。また一方、昼夜にかかわらず、地方と踊り手が一団となって各町内を踊りながら行進するのも街流しと言っています。
合いの手 唄と唄のあいだ、踊りと踊りのあいだや踊りの種類を変えるときのつなぎとして入れる楽器だけの演奏、間奏のことです。この合いの手の演奏もおわらの魅力の一つです。胡弓が一番引き立つのも、この合いの手です。
二つ合い 踊りがない時も、踊りが付いたときも唄二つが終わるごとに、合いの手を演奏することです。唄が三つ毎に合いの手を入れることを三つ合いと言います。舞台踊りではほとんどが二つ合い、街流しや輪踊りなど長時間続くときは三つ合いや四つ合いです。
返し 舞台などで最初の合いの手の演奏の前半を抜いて、後半から演奏しながら演じることですが、八尾ではあまり行いません。これは舞台などで時間を制限されたりした場合に行います。
調子を取る
(合わせる)
調子と言うのは音の高さのことを言います。唄い手の声の高さに合わせて調子(高さ)を決め、その音を調子笛などから三味線や胡弓に、または立三味線から他の三味線や胡弓などに音をうつしとることを「調子を取る」と言います。自在に調子を取れるまでには熟練が必要です。
何本
(三味線)
本来は三味線で使う言葉で、音の高さをさします。三味線の一本は尺八の約二尺三寸の音、二本は尺八の約二尺二寸の音、五本は尺八の約一尺九寸の音、六本は尺八の約一尺八寸の音です。しかし、おわら節には尺八の演奏は入りません。
何寸?と言って調子を伺うことがありますが、それは尺八の演奏が入る場合です。何寸と言うのは尺八楽器の一尺何寸の一尺、二尺何寸の二尺を省略して単に何寸と言っているのです。よって伴奏に尺八の入らない越中おわら節では何寸というのは不適当です。
唄を何本と言うのは素唄、字余りなどには関係なく、唄一つ唄うことを唄一本と言うこともあります。
掛け合い 唄い手同士が唄をやり取りすることです。
例 唄(うと)て通るに なぜ出て遭わぬ 常に聞く声 オワラ わすれたか
   常に聞く声 忘れはせぬが 親の前では オワラ 籠の鳥
サワリ 一言で言うと余韻のことです。調弦と同様に三味線演奏で最も重要なことの一つで、このサワリが出ていない三味線は楽器として失格です。余韻というのは、一、二、三の糸がきちんと調弦出来て、サワリが付けば一の糸ばかりでなく、二の糸にも三の糸にも共鳴し、またその他のカンドコロでも共鳴をして余韻が生まれ、音も曲も生き、映えます。つまり、サワリは各糸の共鳴とその余韻のことです。機会があれば、サワリを付けない音と、サワリの付いた音とを聴き比べてください。
胡弓にはサワリはありません。胡弓の演奏は継続音なので、サワリの必要はないのです。
ツボ カンドコロとも言い、ピアノの鍵盤、ギターのフレッドにあたる箇所です。が、三味線には特にそのような印はついていません。しかし、三味線にも胡弓にも譜尺や譜面があります。調律が狂っていれば、いかに高価なピアノであっても演奏の用にはなり得ないのと同様に、たとえ調弦やサワリがきちんとしていてもズレたツボで弾く人は演奏者としては失格です。三味線も胡弓もきちんと正しいツボを押さえて正確な音で演奏してください。
コロガシ おわら演奏での三味線やその他の基本となる旋律のことです。下図と参照しながら理解してください。コロガシの旋律を口三味線で言えば、ドン、ツン、テン、ン、コロチン、ツン、ドンの、6拍子をヒトコロガシと言って、唄や合いの手以外はずっとこのコロガシを弾いています。
このコロガシを時計の盤で言うと、12時がドン(一の糸)、2時がツン(二の糸)、4時がテン(三の糸)、6時がン(拍子だけで音は無し)、8時がコロチン(一、二、三の糸)、10時がツン(二の糸)、再び12時のドンまでの6拍子を繰り返しながら弾きます。このことをコロガスと言い、ひとコロガシとはドンからドン迄の一周り、ふたコロガシとはドンからドン迄を二周り弾くことです。素踊り、蛍狩り、案山子踊りなどは、このコロガシと合いの手の演奏だけでも踊り続けられます。